AI活用・自動化

AIで仕事を楽にすることへのためらい。患者さんと向き合う時間から考える

2026.08.31
AIで仕事を楽にすることへのためらい。患者さんと向き合う時間から考える

患者さんが帰った後で、「もう少し話を聞きたかった」と思う。 関係先への連絡を終えてから、「相手の事情まで確認できていただろうか」と気になる。 それでも、目の前には作成途中の書類が残っている。

医療の仕事には、人と向き合う時間と、その仕事を支える記録や書類の両方が必要です。 どちらも必要だからこそ、時間の配分に悩みます。

文章の下書きや情報の整理を助ける生成AIは、書類作成の負担を減らすための選択肢です。 一方で、「AIに作ってもらうのは、楽をしすぎではないか」「自分で考えていないようで、ずるい気がする」と感じる人もいるでしょう。

AIを使うことに、気が引けるとき

自分で文章を考え、何度も書き直し、時間をかけて仕上げてきた仕事ほど、AIが短時間で下書きを出すことに戸惑いがあるかもしれません。 それまでの苦労は何だったのかと感じたり、周囲から手抜きだと思われないか気になったりすることもあるでしょう。

仕事を丁寧に続けてきた経験まで、AIによって価値がなくなるわけではありません。 案内文に必要な情報がそろっているか、患者さんが読み違えないか、現場の運用に合っているか。 下書きの良し悪しを判断するときにも、その経験を使います。

もちろん、AIへの懸念には、仕事への思いだけでなく、安全性や責任の問題もあります。 内容を確認せず使ってしまうことや、職場で禁止されている情報を入力することへの心配は、使い方を決める際に扱うべき論点です。 「AIに抵抗がある」という一言で、これらを一緒に片づけることはできません。

書類にかけた時間と、書類が果たす役割

書類の役割は、必要な情報を正確に記録し、相手に伝えることです。 診療や支援を引き継ぐための記録も、患者さんへのお知らせも、その役割があるから作成します。 作る過程に時間をかけたかどうかだけで、仕上がった書類の価値が決まるものではありません。

たとえば、休業日のお知らせを作る場合を考えます。 担当者が公開してよい日付や案内事項を用意し、AIに文案を作ってもらう。 担当者は、日付が正しいか、必要な案内が抜けていないか、誤解を招く表現がないかを確認して仕上げます。

この手順で、最初から文章を組み立てる負担を減らせる場合があります。 ただし、下書きが早くできても、誤りが多くて修正に時間がかかれば、全体では短くならないこともあります。 時間短縮は、AIへの指示から確認、修正までを含めて考えます。

書類を粗末にせず、作成にかかる手間を減らす。 その工夫を、仕事の進め方として認めてもよいのではないでしょうか。

患者さんや関係者との間に確保したい時間

書類作成の時間を短くできたとき、医療者として何に時間を使いたいでしょうか。 患者さんへの説明を終えた後、その反応を確かめる時間も、一つの使い道です。

たとえば、薬の飲み方を伝えた後、すぐに次の作業へ移る代わりに、「普段の生活の中で、続けにくそうなところはありますか」と尋ねる。 患者さんが言葉を探していたら、少し待つ。 こちらが必要だと思う説明に加え、本人が何を気にしているのかを聞くための時間です。

こうしたやり取りを重ねることを、信頼関係づくりのために大切にしたいと考えます。 話す時間を増やせば必ず信頼される、という意味ではありません。 相手の話を聞き、理解が合っているかを確かめ、必要な対応を考えるための時間を確保したいのです。

医師、看護師、ケアマネジャーなどとの調整にも、時間が必要です。 必要な事項を連絡して終えるだけでなく、相手が対応できる時期や、まだ確認できていないことを話し合う。 本人や家族の希望を踏まえ、誰が何を担うのかをすり合わせる。 文面を整える作業をAIで補助しても、実際の事情を確かめ、合意をつくる仕事は残ります。

AIに補助してもらう作業と、その先に確保したい時間を並べると、使う目的が具体的になります。 以下は活用の考え方を示す例であり、実際の導入成果ではありません。

AIで補助する作業 人が確認すること 確保したい時間
一般的なお知らせ文の下書き 日付、案内事項、読み違えやすい表現 患者さんの疑問や不安を聞く
会議の議題や連絡文のひな型づくり 目的、確認事項、相手に求める対応 関係者と事情を共有し、役割を調整する
個人情報や機密情報を含まない手順書の構成整理 実際の手順、安全上の注意、抜け漏れ スタッフの相談に乗り、一緒に対応を考える

これらの例も、職場で利用が認められたサービスと情報の範囲内で行うことが前提です。

AIが下書きを作り、人が事実や情報の扱いを確認する。確認と修正を含めて時間を短縮できたら、患者さんとの対話、関係者との調整、休息と学びにどう配分するかを決める図解

図:入力前に、職場で認められた情報かを確認します。AIの下書きを人が確認したうえで、短縮できた時間の使い道を決めます。

AIに任せる範囲と、人が引き受ける責任

AIの文章は、読みやすく整っていても、内容が正しいとは限りません。 WHOは、医療での生成AI利用について、誤った情報や不完全な情報を出すリスクと、AIへの過信によって誤りを見落とすリスクを挙げています。WHOの公式資料(2024年1月18日)

医療に関わる内容は、AIの出力だけで正しいと判断せず、信頼できる資料や現場の情報と照らし合わせます。 患者さんの状態に応じた判断や説明についても、担当する医療者が確認し、責任を持って行います。 AIを使ったことを理由に、確認や判断の責任がなくなることはありません。

入力する情報にも注意が必要です。 患者さんの氏名、病歴、服薬内容などを、職場で許可されていない外部のAIサービスに入力しないようにします。 氏名だけを削除しても、ほかの情報との組み合わせから本人が分かる可能性があるため、それだけで安全と判断しないことが必要です。 患者情報を扱う仕組みを導入する場合は、医療機関の情報管理担当者やエンジニアに相談し、利用条件や安全管理を確認する必要があります。

個人情報保護委員会も、入力する情報の内容を踏まえ、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを確認して利用を判断するよう注意を促しています。生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(2023年6月2日、PDF)

職場では、使ってよい業務、入力してよい情報、誰が確認するかをそろえておくと、周囲も仕事の進め方を理解しやすくなります。 「AIで下書きを作り、担当者が事実と表現を確認する」と説明できる使い方を目指します。

生まれた時間を、追加の仕事だけで埋めない

書類作成が早く終わっても、その分だけ別の作業を増やせば、患者さんと話す時間は増えません。 対話や調整の時間を確保したいなら、その使い道を日々の予定や業務分担に反映する必要があります。

たとえば、相談が必要な患者さんに対応する時間を設ける。 関係先への連絡をまとめて行える時間を確保する。 チームで始めるなら、「何分短くなったか」と一緒に、「後回しにしていた対応に時間を使えたか」も振り返ります。

確保した時間を、休憩や学びに充てることも選択肢です。 休憩を削りながら働いているなら、まず休憩を取れるようにする。 確認したかった資料を読む時間や、経験を振り返る時間に使ってもよいはずです。

AIを使うために、「楽になった分だけ、もっと働かなければならない」という条件まで背負う必要はありません。 負担を減らして無理なく仕事を続けることも、働き方を見直す目的に含めたいと思います。

もう少し時間を使いたかった仕事から始める

AIの使い道を考えるとき、最近の仕事で「もう少し時間を使いたかった」と思う場面を、一つ思い出してみてください。 患者さんの話を聞くこと、家族への説明、関係者との調整、スタッフの相談。 あるいは、取れなかった休憩かもしれません。

その時間をつくるために、繰り返している作業のどこを軽くできるかを考えます。 最初は、個人情報を含まないお知らせ文を一つ、職場のルールに沿ってAIで下書きしてみる程度でも構いません。 確認まで含めて負担が減るかを試し、合わなければ使い方や対象を見直します。

AIで書類を作る時間を短くできたら、その分、患者さんの話をもう少し聞ける。 そんな使い方から、仕事を楽にすることの意味を考えてみたいと思います。


Pharmapiaでは、AIを使える業務の整理や、現場に合った使い方と情報管理ルールづくりを支援しています。
「何に使えばよいか分からない」「スタッフの不安も含めて考えたい」という段階から、ご相談いただけます。

本文中の活用場面と画像は説明のための例です。特定の医療機関の事例や、実測した時間短縮効果を示すものではありません。画像はAIで生成しています。

無料ニュースレター

生成AIとIT活用を、基礎からメールで

Pharmapiaレターでは、生成AIの基礎、仕事で使う手順、安全確認のポイントを、平日の短いNotesと週1回の記事で無料配信しています。無料購読後すぐに、生成AIを仕事で使う前に確認したい7項目をまとめたA4一枚のチェックリストを受け取れます。

Pharmapiaレターを無料購読
#AI活用#医療#薬剤師#業務改善

まずは、話してみませんか。

相談は無料です。売り込みはしません。

LINEで相談